潮騒、某、暮れ泥み

小説のような旅行記を。

甲信・常総・群馬旅行

 秋の乗り放題パスを使って、東京を中心に右往左往していちいち家に帰ってくることで宿泊費を浮かせる旅を計画したのは、出発の前日だった。突発的な思いつきで旅を始めてしまうのが旅人の性である。旅は自由奔放でなければならないと思っている。だからこれは独立した三つの旅の日記である。

 中央特快で高尾まで行くと、次は大月行に乗って、更に小淵沢行に乗った。小淵沢が初日の旅の出発地と言っていい。小海線が主役の旅だ。

 

 

 小海線は日本一標高の高い路線である。長野県南牧村野辺山駅が日本一標高の高い駅で、山梨県北杜市にある二番目に標高の高い清里駅との間に最高地点(1375m)がある。その上を観光列車である快速HIGH RAIL 1375が走っている。小海線の終点・小諸駅に向けて、私はそれに乗ることにした。

 HIGH RAIL 1375は快速で全席指定席なので、今回の秋の乗り放題パス18きっぷなどに指定席券だけを足せば乗ることができる。えきねっとで指定席を予約し、大月駅で乗換待ちの間に発券しておいたものを駅員に提示して、車両に乗り込んだ。

 

 

 標高が高い、すなわち空に近いことから星空をテーマにしている小海線なので、車内には天体に関する書籍やプラネタリウムなどがあった。また、車内販売もあり、車内に土産物屋があるような感じだった。

 

 

 

 やがて2時間ちょっとの観光列車の旅が始まった。列車は快速なので途中駅をどんどん飛ばし、しばらくして清里駅に着いた。ここで一旦降りて写真を撮ったりする時間が与えられる。標高は1274m、最高地点より100m程低い位置にある。それでも標高が高いので涼しく感じられた。そして列車は次の野辺山駅へ向けて発車した。

 

 

 ここからいよいよ最高地点を通る。最高地点が近づくと、それを示す柱が見えるとのアナウンスがなされた。一瞬だったが確かにそれを見ることができた。今まで東西南北の果てまで行ってきたが、上への果てにも到達したことになる。

 やがて野辺山駅に着くと、ここでも写真を撮る時間が与えられる。ここでは駅員が記念撮影をするサービスを行っていた。標高は1345m。日本一高い駅であることがアピールされていた。

 

 

 

 野辺山を過ぎると、後は普通の快速として走り続ける。小諸駅に着いて、観光列車の旅は終わった。ところで、旅程では小諸に滞在できる時間が長くない。急いで小諸城址・懐古園に向かった。

 

 

 懐古園は城跡と博物館や美術館、動物園まで併設した複合的な施設である。まずは天守台を目指し階段を上っていく。本丸には懐古神社があり、そこに参拝した。その後、神社の裏から天守台に上った。天守台からは庭園の一部を見下ろすことができるが、特別眺望のいい場所という程ではない。天守台を下りると、次は動物園の方へと向かった。

 

 

 

 動物園は小規模ながら様々な動物がいて、我々を楽しませてくれる。急ぎ足でそれらを見ていった。ポニーやペンギンはとりわけ人気が高いように見受けられた。

 

 

 

 動物園を後にすると、最後に本陣主屋と大手門を見に行った。時間がなくて本陣主屋の中を見学できなかったのが悔やまれるが、旅程に少し無理があるので仕方がない。早足で小諸駅へと戻った。そしてしなの鉄道上田駅に行くために切符を買った。

 

 

 

 ちなみに小諸はアニメ「あの夏で待ってる」の聖地である。もう放送から10年も経過しているのに、未だにポスターがあちこちに貼られており、タペストリーもあり、地元民の作品への愛が感じられた。こういう町おこしはやはりいいものである。

 

 

 しなの鉄道は元々は信越本線だったものが三セクに移管されたものである。それに乗り上田駅で降りると、次は上田名物らしい馬肉うどんを食べに行った。馬肉が乗っているだけでなく、出汁も馬肉から取っているらしい。上田に馬肉の文化が根付いていることが窺える。こしのある美味しいうどんだった。

 

 

 

 店を出て、次は上田城に向かった。上田城は真田氏と関わりの深い城で、天守などは再建されてないが、二つの櫓と一つの櫓門が再建されている。櫓への入場券を購入し、眞田神社に参拝した後、櫓の内部を見学した。

 

 

 

 二つの櫓は二階建て、その間を櫓門が繋いでいる。順路に沿って甲冑や瓦や写真などを見て回った。時間がなかったので、上映されていた城の紹介映像はろくに見ることができなかった。やはり旅程に無理があった。

 最後に旧北国街道の柳町を見ていくことにした。城の出口からは10分ほど歩いたところにある。柳町は往時の宿場町の風景を保ったような風情のある町並みだった。そこを通りつつ駅へと向かう。

 

 

 時間がなくて、最後は上田駅まで走る羽目になってしまった。気温も下がりつつあるというのに、夏の時のように汗をかきながら何とかしなの鉄道小諸行に乗った。ここからは来た道をそのまま引き返すだけである。帰りの小海線普通列車に乗った。

 

 2日目は始発に近い程の早朝から中央・総武緩行線に乗って千葉へ向かい、そこから総武本線銚子行に乗り込んだ。

 寝ているうちに銚子に着いて、次は銚子電鉄に乗る。一日乗車券を購入し、レトロな車両に乗り込むと、車内はピンク色でたくさんの風船やぬいぐるみなどが置いてあった。これには度肝を抜かれた。車内の広告を見ると、「アイドルマスターSideM」と岩下の新生姜銚子電鉄のコラボということだった。S.E.Mともふもふえんのキャラクターが描かれていた。

 

 

 

 列車に乗っていると、随所に観光案内のアナウンスが入る。緑のトンネルや髪毛黒生駅(笠上黒生駅)など見所がいっぱいだ。そして犬吠駅で降りた。

 

 

 犬吠駅犬吠埼灯台の最寄駅で、駅舎には土産物屋も入っている。ここにもS.E.Mのパネルや、「はたらく魔王さま!」のキャラクターのパネルがあった(テレビアニメ2期で銚子が出てきたため)。いかに銚子電鉄が観光に力を入れているかがよくわかった。

 

 

 

 ぬれ煎餅を買い、犬吠埼灯台に向けて歩き出した。しばらくすると、灯台と壮大な太平洋の荒波が見えてきた。一帯は銚子ジオパークであり、白亜紀の地層も見られた。海風が強く吹いていた。

 

 

 灯台の中に入ると、螺旋階段が続いていた。狭い階段を人とのすれ違いに注意しながら上っていくと、やがて展望台に着いた。あまりに海風が強く吹きつけるので参ったが、展望台から見える太平洋沿岸の景色は絶景だった。展望台をぐるっと一周して存分に海を楽しんだ。

 

 

 灯台を下りると、併設されている資料館に行った。歴史を解説したパネルや、巨大なレンズなどが展示されていた。また別の建物には、濃霧の時に道標となる音を鳴らす機械も置かれてあった。灯台というものをここまでじっくり見たのは初めてだった。流石世界灯台100選に選ばれているだけのことはある。

 

 

 灯台を後にすると、犬吠駅に戻り、外川まで一駅乗った。外川駅は木造でレトロな風情のある駅舎だ。一頻り写真を撮ると、折り返し銚子行に乗った。これで銚子電鉄は完乗、銚子電鉄の旅を十二分に楽しめた。

 銚子に戻ると成田線で佐原へ向かう。これは偶然なのだが、この日佐原では祭りが開催されていた。佐原駅前には多くの人がいたし、チーバくんもいた。少し時間があったので観光案内所で香取市コミュニティバスの一日フリー乗車券を購入した。しかし、これで香取神宮に行くのは後の話。

 

 

 佐原駅に戻って、鹿島線に乗り込んだ。鹿島神宮駅で降りると、坂を上って鹿島神宮を目指す。鹿島神宮常陸国一宮だ。少し行くと表参道に店舗が軒を連ねているのが見えた。その中を進んで神宮の境内に入った。

 

 

 森の中の参道を進むと、朱色の総門が顔を見せた。それを潜ると社殿があるのだが、残念ながら工事中のようだった。それでも参拝はできるようになっているので、行列に並び、二礼二拍手一礼する。その後、奥宮の方へ進んだが、そこにも行列ができていて、時間がなかったので参ることはできなかった。

 

 

 

 奥宮を見終わると、鹿が飼われているのを見たりしてから駅へと戻った。何とか間に合って、鹿島線佐原行に乗った。佐原に戻ってくると、次は香取神宮だ。先程買った切符を使ってコミュニティバスに乗った。

 

 

 香取神宮下総国一宮である。バス停に着くと、歓迎の文字が目に入った。参道には同様にたくさんの店が出ており、団子などを売っていた。奥へ進むと、鳥居があって、一礼して中に入るとまた森の中を進んだ。

 

 

 

 こちらにも鳥居と朱色の総門があり、その先に拝殿があった。こちらは工事中とかではなくてほっとした。行列に並んで、参拝。その後は摂末社を見て回り、要石などを見た。そして再びコミュニティバスに乗って、佐原駅に戻った。

 

 

 佐原駅からすぐのところから多くの出店が並んでおり、祭りを見にきた人でごった返していた。佐原の大祭は関東三大祭りの一つに数えられ、世界無形文化遺産にも登録されているという。その中を進むと、山車とその上に乗る大人形が見えてきた。山車がのの字に回るのがこの祭りの見せ場らしい。それを運よく見ることができた。

 

 

 その後は今夏食べることのなかったかき氷を夏のやり残しとして食べ、小江戸・佐原の風景、小野川の両岸に木造建築が並ぶ町並みを見に行った。見事な木造建築の並びと、川を進む小舟、柳の木が調和して、さながらタイムスリップしたような景色があった。その中に伊能忠敬旧宅があったので、そこも見学した。

 

 

 

 伊能忠敬は佐原で酒造業を営んでいたという。その後、測量の旅に出て日本地図を作り上げたようだ。佐原の偉人として、駅前にも像があったことを思い出した。

 小野川沿いに踏切の辺りまで歩いて行き、そこから駅に戻った。北総・鹿行エリアの旅はこれで終わりである。成田線成田行に乗って成田まで行き、成田線から横須賀・総武快速線久里浜行に直通する電車に乗って、帰路に就いた。

 

 3日目は群馬を目指す。群馬と言えば名湯が多く存在することで知られる。群馬の名湯巡りの旅だ。

 始発の高崎線に乗って、北進する。大宮辺りから意外と乗客が多くなってきた。そのまま座ってゲームをしていると、高崎駅に着いた。

 最初に向かうのはかの有名な草津温泉吾妻線長野原草津口駅からバスに乗って行くことができる。高崎から上越線経由吾妻線直通長野原草津口駅行に乗った。4両編成だったが、そんなにいるだろうかと思う程空いていた。

 長野原草津口に着くと、すぐにバスに乗り換える。JRバス関東草津温泉行だ。バス代は710円と少し高いが仕方がない。ICカードをタッチしてバスに乗った。内部は高速バスのような造りだった。

 

 

 

 草津温泉に着くと、まずは有名な湯畑を見に行くことにした。湯畑からは湯気が立ち込めており、草津温泉の顔とも言える光景に見惚れた。

 

 

 湯畑を少し眺めた後、その目の前にある共同浴場へ。脱衣所と風呂場に仕切りがない構造で、洗い場もないが、無料で入れるというありがたい温泉だ。二つの湯船があり、一つは熱すぎて入れたものではなかったが、もう一つは何とか入ることができた。それでもすぐのぼせそうになったので、早々に温泉から出た。硫黄臭の強い泉質だった。

 

 

 温泉から上がると、温泉街を散策した。湯畑には常時熱湯が流れ続けており、滝になっている場所も見所の一つだった。土産物屋や食べ歩きのできる店も多く、多くの観光客がいた。そこでお土産を買い、最後に湯もみと踊りのショーを見ることにした。

 

 

 

 建物内に小さな湯畑があり、そこで木の板を使って湯を冷ますショーと、草津に伝わる踊りを披露してくれた。「ちょいな、ちょいな」という掛け声が印象的だった。ショーの値段は少々高かったが、見られてよかったと思った。

 

 

 帰りのバスは混んでいた。長野原草津口行のバスにずらりと行列ができており、同じ時間に何台ものバスが出た。最初の一つに乗れなくて少し焦ったが、次に来た奴にすぐ乗れたので事なきを得た。

 長野原草津口に着くと、列車が来るまでの待ち時間にお土産を物色したりして過ごした。吾妻線新前橋行が来て、吾妻線の起点である渋川駅で降りた。ここから伊香保温泉に向かうのである。

 

 

 バスは既に止まっていて、乗り込むとすぐに発車した。関越交通のバスで、ICカードも使えるので便利だ。そして、伊香保温泉の景観として有名な石段の下で下車した。

 

 

 365段あるらしい石段を見上げると、こちらも多くの観光客がいた。石段を少し上って、温泉に入った。伊香保温泉の泉質は普通で、温度も程よく入りやすかった。こちらは有料だが洗い場もあるので設備としては優れている。

 

 

 温泉から出ると、更に石段街を上へ上へと進んでいく。石段街にはたくさんの店が軒を連ね、食べ歩きしている人も多くいた。途中で振り返ると、伊香保から渋川に続く街並みが見えて美しかった。賑々しい温泉街の雰囲気に浸りながら、石段を最上段まで上ると、伊香保神社に着いた。

 

 

 

 

 

 伊香保神社に参拝し、頂上のベンチで一休み。その後は往路とは違う頂上側のバス停に向かった。しばらくバスを待って、渋川駅行のバスに乗った。渋川に着くと、すぐに上越線高崎行が来て、高崎ですぐに高崎線に乗り換える。温泉で体も心もリフレッシュされた満足感を覚えながら、東京へと帰った。3日間で普段通過することのない盲腸線を行き帰りすることができたので、ずっと行ってみたかったところを無事回収できた。忙しないが楽しい旅が終わった。