傷心旅行、彼方まで

小説のような旅行記を。世界遺産検定1級。鉄道旅を主として全国を旅しています。

四国八十八ヶ所原付遍路 高知編

 前回の記事はこちら。

imtabi.hatenablog.com

 

 高知県は四国の中で最も広いにも拘らず、寺の数は一番少なく、寺同士の間隔が相当大きいところもあるので、一番過酷な「修行の道場」と言われる。実際、徳島の巡礼よりかなり骨の折れる巡礼路であった。

「朝4時に何してるんだい?」旅支度をして、まだ寝静まっている民宿を物音立てぬようにチェックアウトし、原付のエンジンをかけた。日和佐から出発して7時頃に高知最初の寺となる第二十四番に着くには、4時台のまだ真っ暗な深夜のうちに原付で走り出して何とか間に合うというほどに距離があるので、こんな時間から国道55号をひたすら南下し始めた。「朝の4時よ! これから走りに出るんでしょ?」

 初めは真っ暗だった国道も、少しずつ日が昇ってきて、高知県に入った頃には朝焼けの綺麗な海を臨みながら走れる爽快なツーリングになっていった。

 

f:id:imtabi:20240611184229p:image

 

 宿を早く出たおかげで7時ちょうどくらいに室戸岬まで到達した。そこから山道を少し登ったところに高知県最初の寺である最御崎寺室戸岬展望台がある。ちなみに「最御崎寺」と書いて「ほつみさきじ」と読む。これは流石に読み方がわからなかった。

 

f:id:imtabi:20240611184320p:image

 

 まずは最御崎寺をお参りして納経をしてもらった。それから展望台の方に行くと、快晴の室戸の海を展望することができた。灯台にはかなり高くなってきた朝日が差している。まだ一日が始まったばかりなのに、もうクライマックスみたいな絶景だった。前回室戸に来た時に行けなかった山の上をちゃんと観光できて、その意味でも非常によかった。

 

f:id:imtabi:20240611184353p:image


f:id:imtabi:20240611184400p:image

 

 前回高知を訪れた時の話は下記を参照されたい。

imtabi.hatenablog.com

 

 坂道を下ると、今度は土佐湾に沿って海沿いの道を高知市方面へと走っていった。まずは室戸市の市街地に近いところにある津照寺金剛頂寺に行って、その次は安田町の神峯寺へ向かった。

 

f:id:imtabi:20240611184609p:image


f:id:imtabi:20240611184604p:image

 

 ところが、神峯寺に至る急な坂道の途中でエンストしてしまった。給油ランプが点き始めていたからそろそろ給油しなければとは思っていたもののまだ平地なら問題なく走れるくらいのガソリンは残っていたので油断した。坂道をこれ以上登れないので、一旦麓まで下りることに……。完全なガス欠ではないので、自由落下で坂道を下って、すぐ近くにあったガソリンスタンドで給油して事なきを得た。この日以降、毎日給油を欠かさず朝出発する時に確実に満タンにするようになった。

 気を取り直して山道を登っていって神峯寺に到着した。神峯寺の広い境内を見て回りながら休憩を挟んだ。

 

f:id:imtabi:20240611184711p:image


f:id:imtabi:20240611184725p:image

 

 参拝と納経を済ませると、次は香南市大日寺と南国市の国分寺へ。「大日寺」とか「国分寺」とかみたいな名前の寺はたくさんあるので八十八ヶ所の中にも何個かずつあるが、全部別物である。


f:id:imtabi:20240611191500p:image


f:id:imtabi:20240611184716p:image

 

 流石の立派さを誇る国分寺の次は、いよいよ高知市内に入って、第三十番の善楽寺に着いた。高知市まで来ればネカフェなどもあって宿泊に困ることもないので、めちゃくちゃに早起きしてまでずっと原付を走らせてきたのが報われた。

 

f:id:imtabi:20240611184846p:image


f:id:imtabi:20240611184850p:image

 

 ここからの数ヶ所は、少なくとも現代の道路状況から考えると最短ルートに見えずやや逆走しているようにも感じられる立地の寺だが、順打ちのルールに沿って一応順番通りに行くことにした。

 次の竹林寺高知市南部の五台山の上にあって、そこには他にも展望台など色んな施設があって一気に俗っぽい観光地に来た気分になった。五台山展望台からは高知市の街並みが見渡せ、時間的にもうあまり余裕がなくなっていたにも拘らずしばらく眺めていた。

 

f:id:imtabi:20240611184919p:image

 

f:id:imtabi:20240611185150p:image


f:id:imtabi:20240611185145p:image

 

 次の禅師峰寺は南国市にあって、ここがどうも逆走しているような感じがしてもやもやしたが、一応順番通りに参拝。その次の雪蹊寺はまた高知市に入って、有名観光地の桂浜のすぐ側を通り過ぎてしばらく行ったところにある。時刻は既に16時台であったが、平地にあって行きやすいところなので何とか納経に間に合う時間に到着することができた。高知巡礼の1日目はここまでとなった。

 

f:id:imtabi:20240611185223p:image


f:id:imtabi:20240611185228p:image

 

 そこからは土讃線の線路より北側にあるネカフェまで、市内を結構南北に移動して、原付を停めるとすぐ近くの居酒屋に入った。日本は海に囲まれているし、その中でも高知の魚は美味しいので、刺身盛りなどを注文して、ビールや地酒を飲んだ。また、鰹の叩きで有名な高知には、それを巻いた土佐巻きなる巻き寿司も存在し、それも気になったので食べてみた。

 

f:id:imtabi:20240611185318p:image


f:id:imtabi:20240611185313p:image

 

 こうして満足のいく高知の夜を過ごせたので、できれば次の日に高知をコンプリートしたいと思いつつ荷物整理をして、お遍路全体でも最も過酷と言っていい高知県西部の巡礼に備えた。

 

 次の日は曇りの中、6時台にネカフェを出発し、7時より少し前に同じ高知市内の種間寺に着いた。高知県西部は本当に一つ一つの寺と寺の間が開いているので、なるべく早く回ろうと思って一番乗りという感じで来た。それでも既に不安なくらい西部は長い。

 

f:id:imtabi:20240611185351p:image

 

 その次の清瀧寺と青龍寺土佐市にあって、名前が似ているので紛らわしいというのに加え、青龍寺の方は土佐市から隣の須崎市にかけて広がる細長く狭い浦ノ内湾の、湾を超えて太平洋に面する半島側にあって立地的にも印象深い。また、桜が咲いているのも見ることができ、春が近づいてきていたことが感じられた。

 

f:id:imtabi:20240611185445p:image


f:id:imtabi:20240611185453p:image


f:id:imtabi:20240611185449p:image

 

 青龍寺からはその半島をずっと西へ行って須崎市に入る。次の第三十七番にあたる岩本寺までは結構な距離があるので、須崎市内のショッピングセンターに立ち寄って休憩をすることにした。店内の一角にある百均で緩んでいたサイドミラーのねじを締めるための六角スパナを探していると、幅を自由に調整できるという便利なスパナが見つかった。そして小銭入れなどのあるコーナーを見ていた時に、賽銭や納め札を取り出しやすいようにそれだけを入れておくための袋として便利ではないかと思って、ついでにそれも買うことにした。日本の百均には本当に色々あるものである。

 

f:id:imtabi:20240611192010p:image

 

 それで須崎に感謝しながら再び西進して、四万十町にある岩本寺まで到着。ここもつい数ヶ月前に高知に来た時に訪れた窪川エリアにあるので、近づいてくると何となく薄ら見覚えのある景色のようなそうでもないような気がしながら寺をお参りすることができた。

 

f:id:imtabi:20240611185656p:image


f:id:imtabi:20240611185701p:image

 

 さて、この次が距離的な意味での最大の難所だろうと思っている、足摺岬にある金剛福寺である。足摺半島は結構広く、高知西部の中心都市である四万十市中村からもかなりの距離があった。窪川からは実に3時間ほどかけて向かうことになった。更に悪いことに、雨が降り出したので、レインコートを来たものの、下半身は防げずに濡れ、風も吹いて寒く、途中で少し眠気を感じてコンビニで休憩したりなどして、かなり過酷な道を走ってやっとこさ夕方に金剛福寺に辿り着くことができた。

 

f:id:imtabi:20240611185736p:image


f:id:imtabi:20240611185731p:image

 

 金剛福寺を参拝して、立派な庭園も一通り見て回った後は、流石に疲れて雨の凌げる場所のベンチに座って休憩した。足摺岬にはもっと天気のいい時に来たことがあったので、天気も悪く、原付で200kmも移動した後の状態では見に行こうという気も起きなかった。

 

f:id:imtabi:20240611185818p:image

 

 次が高知県最後の寺となる宿毛市延光寺だが、納経してもらえる時間内でそこまで移動するのは厳しい時間帯だったので、中途半端な感じではあるがここでこの日のお遍路は終わりということにして、しばらくベンチに座りっぱなしでいた。

 その間に宿毛の方の民宿を探すと、何とか一つこの時間からでも予約して宿泊できるところが見つかったので、そこに向かおうとまた原付に跨った。傘を差すかどうか迷うくらいの微妙な強さの雨がずっと顔や手にあたるのが本当に鬱陶しかった。足摺岬がかなり南に突き出しているような形なので、土佐清水市の中心部まで戻るのにも時間がかかり、そこから宿毛の市街地に近い宿までは更にかなりの距離があった。この日が距離としては一番長く走った日となった。ただでさえ広い高知県で更に寺が室戸岬足摺岬みたいな端っこに位置していることを本当に恨めしく思った。

 何とか完全に日が暮れて夜になるより少し前に宿まで辿り着くと、オーナーは歓迎してくれ、宿でのルールや設備の説明をする間にお茶も出してくれた。原付で来たことを伝えると、少し離れたところの車庫のような場所も案内してくれて、そこに格納してもらった。

 その後は自由な時間なので、例によって宿毛駅に近いところまで行ってふらりと居酒屋に入った。いくら高知にいるといえども毎回鰹では流石に飽きるので、この日は別の魚を食べようと思って、きびなごなどを注文した。地酒も楽しみたいところだったが、普通の日本酒ばかりも飽きるので、日本酒に柚子果汁を入れた風変わりな日本酒や、高知県西部で栽培されている柑橘類である直七のサワーなどを飲んで、柑橘系のフレーバーを楽しんだ。広いだけで寺の数は少ない高知は意外と早く去ることになったので、高知最後の夜をしっぽりと過ごした。

 

f:id:imtabi:20240611185948p:image


f:id:imtabi:20240611185952p:image


f:id:imtabi:20240611190003p:image


f:id:imtabi:20240611185958p:image

 

 帰り道に近くの大きなスーパーで少し買い物をして宿に戻ると、もう既に共同スペースは消灯していて、静かに部屋に戻った。そこで翌日の用意をしようと納め札を書いたりしていたのだが、中途半端なところで眠気が来て寝落ちしてしまい、更にまた変な時間に目が覚めてしまって、深夜をほとんど起きっぱなしで過ごすことになってしまった。

 納め札などの準備を整えて賽銭などと纏めて新品の小さい財布の方に入れ、車庫に行ってサイドミラーのねじをスパナで固く締める整備をした。ねじをしっかり締めるのに意外とてこずってしまって、車庫の中に電気がなくスマホのライトしか明かりがなかったのもあって整備にかなりの時間がかかってしまった。出発する前から疲れていて、しかもほとんど徹夜の状態で出発するのは流石にしんどかったので、部屋に戻った後は少しでも睡眠時間を確保しようと布団に入って仮眠を取った。

 

 仮眠だけでもだいぶ体調がましになったので、朝になると延光寺へ向けて出発した。延光寺までの道はわかりやすく、何となく達成感を覚えにくいような感じで高知県の寺をコンプリートした。

 

f:id:imtabi:20240611190101p:image


f:id:imtabi:20240611190056p:image

 

 これで4県のうち2県の巡礼路をすべて通ったことになるが、数字的にはまだ折り返していないので、あまり悠長にはしていられず、次の第四十番から始まる愛媛巡礼に向かって来た道を折り返していった。妙に風の強い日で、嫌な予感を覚えながら、高知県を抜けて愛媛県に入った。

 

 続きはこちら。

imtabi.hatenablog.com