潮騒、某、暮れ泥み

小説のような旅行記を。鉄道旅を主として全国を旅しています。

サンキューちばフリーパス旅行

 半年以上このブログを更新していなかったので、久しぶりの更新となる。久々の記事なので、もうとっくに販売終了したきっぷを使った、少し昔の旅の記録から執筆を再開しようと思う。去年の秋に発売されていた、千葉県内のJRと一部ローカル私鉄及び東京湾フェリーに乗ることができたフリーパスで、房総半島と久里浜を訪れた。

 基本千葉県内だけで使えるきっぷなので、まずは総武線で市川まで行き、市川からタイトルにあるフリーパスを使用開始。再び総武線に乗って千葉駅まで行った後、内房線五井駅へ。ここから小湊鐵道いすみ鉄道をそれぞれ全線乗って、房総半島の外側へと向かう。

 

 

 小湊鐵道に乗って内陸の田園風景の中を走って、次第に山の中へと入っていき、養老渓谷駅で降りた。天気はあまりよくはなかったが、山に囲まれた遠景と風情のある屋根瓦の駅舎が織りなす幽遠な雰囲気にはそれなりに適していたかもしれない。紅く染まる紅葉も相俟って秋らしい風景だったが、気の早い小ぶりなクリスマスツリーもあった。

 

 

 駅前で待機するバスに乗ってしばらく行くと、粟又の滝がある。バス停から遊歩道を下っていくと、比較的穏やかな流れの川があり、その上流の方に目をやると、滝にしては穏やかだがそれなりには勢いのある水流が微妙に緩やかな斜面を滑り落ちていた。滝の上の方にも行くことができて、水流に削られ複雑になった地形とそこで湾曲しながら流れていく川が見られた。周りの木々は部分的に赤や黄に染まっており、水溜りに落ち葉が溜まっているところもあった。

 

 

 

 一通り滝と紅葉を楽しんで再びバス停の方まで坂や階段を上っていったが、まだ次のバスまではかなり待ち時間があった。時間潰しにすぐそばにあったおしゃれな外観のジェラートの店に入ってみることにした。そこで食べたジェラートは非常に美味しかったが、あまり比較対象を知らないので細かい感想が言えないのが少し悔しい。

 

 

 やがてバスが来て、養老渓谷駅へと戻り、小湊鐵道を更に一駅だけ乗って、いすみ鉄道との乗換駅になる上総中野駅に到着した。上総中野は木造で更に古めかしく、ローカル線の気動車とよく合う駅舎だった。二社の車両が並び、乗客たちはいすみ鉄道へと乗り換えていく。私もその列に沿って列車に乗り込み、次はいすみ鉄道の終点の大原駅まで向かう。

 

 

 

 時間の都合上、いすみ鉄道沿線を観光することができなかったのは少し悔やまれるが、大原駅に着くと外房線に乗り換えて、安房鴨川駅へと向かった。

 

 

 安房鴨川駅に着くと、雨の中少し歩いて、駅の前のバス停へ向かった。そこからバスに乗り、鴨川シーワールドの前で降りて、地下道で道路を横断して正面入口に行く。

 

 

 鴨川シーワールドといえば日本でも有数の巨大な水族館で、特にシャチで有名である。私が訪れたのは既に夕方に差し掛かろうかというかなり遅い時間だったので、シャチのショーなどを見ることはできなかったが、ベルーガのショーは何とか見ることができた。他のコーナーも含めて広大な水族館の中を早足で回って、一通りは見ることができたかと思う。川の魚から海の魚までが水の流れに沿うように紹介されていた。シャチは、パフォーマンスをすることはないもののショー会場で泳いでいる姿を見ることはできた。

 

 

 

 

 

 鴨川シーワールドが閉館する直前に外に出たが、閉館時間と同時に出るバスは出てしまった後で、激しい雨の中、バス停の屋根の下でずっと次のバスを待っていた。数十分してバスが来ると、安房鴨川駅まで戻り、そこから木更津行の内房線に乗って終点まで。すっかり日が暮れて真っ暗な木更津駅周辺の微妙な賑わいを見て東京都市圏の果てであることを感じながら、その日宿泊するネカフェへと向かった。木更津泊である理由は、次の日に始発の久留里線に乗るためであった。

 

 翌朝、久留里線・上総亀山行の始発に乗り込んで、相変わらず優れない天気の中、再び房総半島の内陸側の山奥へと向かった。まったく、天気に関してはなかなかこちらの旅程の都合には合わせてくれないものである。地球物理の不条理を嘆いていると、上総亀山に到着したので、傘を差して列車を降り、田舎の小さな町の中を歩き始めた。一応、季節的に紅葉スポットに向かっているつもりであった。

 

 

 どんよりとした天気の中、ハイキングコースと書かれた案内板に沿って歩いていくと、亀山湖に着いた。雨で余裕がない上に、紅葉もさほど見られなかったので、正直残念な景色ではあったが、ダムの様子を観察することもできたし、久留里線の乗り潰しもできたので、ある程度目的を果たせはした。どうせなら久留里駅周辺の街並みなども見てみたいものだったが、他に行きたいところがあったので、今回は飛ばしてそのまま久留里線で木更津まで真っ直ぐ折り返した。

 

 

 

 その後は内房線で再び南下し、浜金谷駅で下車した。浜金谷駅には以前も鋸山を訪れるために降りたことがあったが、今回はまた別の目的である。初めに書いた通り、今回使用しているフリーパスでは、東京湾フェリーに乗ることができるのだった。せっかくなのでこれを活用しようというわけで、駅舎を出ると金谷港に向かい、そこからフェリーで久里浜港に向かった。久里浜は神奈川県横須賀市になるので最早千葉県ですらないが、このきっぷを最大限に利用するために外せない移動経路だと感じたのでこちらに行くことにしたのだ。

 

 

 対岸の横須賀市を目指して東京湾を横断することおよそ一時間で、久里浜港に着いた。船を降りると、雨は止んでいて、雲は多いものの少しだけ青空が顔を覗かせていた。久里浜での滞在時間ははっきり決めてはいなかったが、とりあえず海沿いを歩いて、ペリー公園を訪れた。ペリー公園にはペリー上陸記念碑としてちょっとした広場の真ん中に大きな石碑があり、その前には青銅の世界地図に航海の記録が記されたものがあった。公園の隅に建つペリー記念館は、その日はちょうど閉館していたので入ることはできなかった。これで当初予定していた久里浜観光は終わってしまった。

 

 

 

 しかし、まだ時間はかなり余っていて、その時港付近からも見えた小高い丘にあるくりはま花の国のことを思い出した。時間が余っているのだから行ってみようと思い、海沿いから内側へと歩いていった。この頃にはかなり晴れ間も見えてきていて、緑や黄の葉が生い茂り、その下には綺麗な花が咲いている坂を上っていった。辺りはさして人もおらず静かであった。

 

 

 坂を上るにつれ、上から綺麗な港町の景観を見下ろせたり、子供向けの遊具があったりと色々な景色の移り変わりを楽しめた。園内は広く、時間的にも体力的にもすべては回り切れなかったが、各地の県木が植えられているエリアに興味を持ってその辺りを鑑賞していた。紅葉しない種も多いので全体的には緑の茂る木々が多かったが、イチョウなど黄色く染まっているものもあった。エゾマツのような亜寒帯の木もあり、日本列島全体の多様な植生を凝縮した興味深いエリアであった。

 

 

 

 

 

 すっかり晴れてきた久里浜を、港へ向かって坂を下りながら折り返していく。時々立ち止まって、咲き誇る花を見物しながら花の国を出て、もう少し行くと港である。時間的にもちょうどいい感じで、再びフェリーに乗って、金谷へと戻った。

 

 

 戻った頃には金谷の方も晴れていた。海沿いから、木でできた駅名標のある駅舎、そして高架橋から見える線路の先の山々と、少しの距離でも随分と景色が変わるので、ホームまでの帰路も飽きることがない。

 

 

 

 そしてやってきた内房線で君津まで行き、ここで横須賀・総武快速線久里浜行に乗り換えた。先程まで久里浜にいたというのに、また久里浜行の快速に乗ることになるとは、首都圏の鉄道網も長距離直通運転が多く複雑なものである。こうして日の暮れた頃に市川に到着して、今回の旅でのフリーパスは役目を終え、通常運賃で東京へと帰っていった。